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2009/07/01 12:56 |
クローズアップ2009:駐留米軍、都市部撤退 イラク主権、厳しい船出 |
イラク政府は30日、イラク戦争開始から6年3カ月ぶりにほぼ全土で治安権限を回復した。駐留米軍戦闘部隊の都市部撤退を受けたもので、マリキ首 相は「主権の完全回復への重要な一歩だ」と胸を張った。だが、宗派・民族間の対立や、民生改善も途上にあるなど不安は多い。イラクからの撤退を、アフガニ スタンへの増派につなげたいオバマ米政権にとっても、イラクの早期安定は不可欠で、周辺諸国との協力強化を図る新たな戦略を進めている。
国民の祝日となった30日、マリキ首相は国民向け演説で「栄光の歴史の新たなページを開きつつある」と訴えた。前夜には花火がバグダッド上空を彩り、大勢の市民が歌や踊りで米軍撤退を祝った。
テロなどによる民間人死者数は一時、月間3700人を超えたが、今年1~5月は230~340人(米ブルッキングス研究所調べ)にまで減少。2月に実施した世論調査でも治安が「改善した」との回答は5割を超えた。
だが、主権完全回復への道は険しい。最大の問題は治安維持だ。
◇宗派間対立根深く
イラク治安部隊は60万人規模に達したものの、練度や装備は不足気味。単独で対テロ作戦を実行できる部隊は1~2割前後にとどまる。米軍が後方へ退いたことで、イラク治安部隊は武装勢力の主要標的となり、過去に頻発した警官志願者などへの攻撃が再開される可能性もある。
米軍撤退前には大規模な爆弾テロも相次ぎ、直前の1週間だけで死者数は250人に跳ね上がった。ロイター通信によると、30日も自動車爆弾で少なくとも20人が死亡した。米国防総省は「今後も重要行事の前後は暴力行為が増える」と警戒している。
このような状況を背景に、駐留米軍は一時、一部都市からの撤退を延期する姿勢も見せた。だが、マリキ首相の政治基盤への影響を考慮し、最終的には延期を断念したという。
国際テロ組織アルカイダなどによる反イラク政府、反米テロの懸念だけでなく、宗派間や民族間の対立も解消されていない。
イラクでは少数派のイスラム教スンニ派が多い武装勢力「覚醒(かくせい)評議会」のメンバー(43)は「米軍撤退で多数派のシーア派主導の政府が (スンニ派への)弾圧を始めるのでは」と懸念する。覚醒評議会は米軍の仲介で対テロ作戦にも従事してきた。だが、米軍の撤退でシーア派との対立が再燃すれ ば、反政府側へ身を投じるメンバーが出てくることも考えられる。油田開発や収益配分を巡り中央政府と衝突を続けたクルド自治政府の関係者も「対立の拡大が 心配」と話す。
治安維持や政治的安定には、民生面での改善も重要課題となる。
実質経済成長率は08年で前年比7%に達したが、失業率は推定25%超。電気、水道、ガスなどの供給率も人口の2~5割(09年2月)にとどまっている。2月の調査で支持率が5割を超えたマリキ首相は、より一層の指導力確保が求められている。【カイロ和田浩明】
◇米、外交力で治安維持 周辺国に関係改善訴え
オバマ米政権の最大の課題は「治安の後退」をどう防ぐかだ。対テロ戦の軸足をアフガニスタンへ移すためにもイラクの安定化は欠かせない。オバマ政権は軍事力による治安維持から、イラクと周辺諸国の関係改善の仲介など外交力の発揮に全力を挙げている。
ゲーツ米国防長官は6月23日、ワシントンの会議で湾岸諸国の国防相らを前に「イラクは、あなたたちのパートナーになりたがっている」と必死に訴 えた。ゲーツ長官は、旧フセイン政権によるクウェート侵攻(90年)などを念頭に「イラクが悪者だったこともある」と指摘した上で、「イラク支援が湾岸諸 国の戦略的利益につながることは明らかだ」と協力を求めた。
ゲーツ長官は、テロなどの情報共有、国境を越えてイラクに流入する武装勢力の取り締まりに加え、アラブ諸国との関係改善の象徴であるイラクの湾岸協力会議(GCC)加盟承認を要請した。
オバマ政権は、周辺諸国の理解と協力を得るため、05年2月以来空席が続いていた駐シリア大使の復帰を決めた。シリア国境からイラクへの武装勢力の流入は減少しているが、米国には大使の復帰と引き換えにシリア側からさらなる協力を引き出す狙いがある。
さらに、オバマ政権は、イラクとアラブ諸国の連携強化により、核開発を進めるイランへの圧力を強めることも狙う。イラクにおける米軍の軍事作戦の比重は減っても、米国の役割の幅は拡大しつつある。【ワシントン草野和彦】
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