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中東観察

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2009/07/03
12:08
イラン大統領選:現職再選、混乱 松永泰行・東京外語大准教授/孫崎享・元イラン大使

 大統領選の開票結果を巡り、イスラム革命(79年)以来の大混乱に陥ったイラン。「再選」を決めた保守強硬派アフマディネジャド大統領と、改革派 ムサビ元首相の対立に端を発した混乱は、革命から30年を経た支配体制のほころびを浮き彫りにした。聖職者中心のイスラム体制の将来や、イランとの対話を 模索するオバマ米政権との関係などについて、松永泰行・東京外国語大学大学院准教授と孫崎享・元イラン大使に話を聞いた。

 ◆改革派には組織も戦略もなかった。リーダーを育てる必要がある

 ◇将来、内部から変革も--松永泰行・東京外語大准教授

 今回の選挙に不正はあったかもしれないが、結果を覆す規模だったとは思わない。

 アフマディネジャド大統領の再選は短期的には、イラン革命体制の護持を命題とする最高指導者ハメネイ師の勝利と言える。米国流の経済、文化、民主主義の流入を警戒するハメネイ師にとって、この大統領は使い勝手がいい。

 だが、中期的には、革命第2世代と言われる、大統領を含む革命防衛隊出身者ら非聖職者エリートの勝利につながる可能性が高い。大統領はタブーを破 り、ムサビ元首相やラフサンジャニ元大統領ら革命の功労者(第1世代)を「腐敗した特権階級」と批判し当選した。メディア、大学、土建、エネルギー、貿 易、政治などの分野でも、革命防衛隊出身者の台頭は目覚ましい。

 イスラム法学者としての権威が弱いハメネイ師は、自身の基盤強化のために革命防衛隊出身者らを育て上げた。ハメネイ師が弱体化すれば、聖職者に依存する現体制を第2世代が内側から破壊することもありえる。

 さらに5~10年後には、「緑の波」運動(ムサビ氏支持の抗議)に加わった人々が勝利するかもしれない。信仰の自由、人権、男女平等、政教分離などを求める中産階級や富裕層だ。今すぐには無理だが、第2世代によって体制が崩されることが前提だ。

 学生中心の99年の抗議運動は広がらず、抑圧された。今回は選挙を機に多数の一般市民が参加したが、改革派には組織も戦略も無かった。改革派はこ れから大衆政党として組織化し、“地区支部”のリーダーを育てる必要がある。79年の革命や1905年の立憲革命がそうであったように、元々イランには政 府に物申す伝統がある。【聞き手・花岡洋二】

 ◆西側との緊張関係を続けたいのが本音。オバマ流シナリオ崩れる

 ◇対米関係改善、困難に--孫崎享元イラン大使

 アフマディネジャド大統領の「再選」で米イラン関係の改善は難しくなった。オバマ米大統領は選挙後の混乱について当初静観していたが、国内保守派 から「弱腰」との批判も受け、イランへの非難を強めざるを得なくなった。イラクとアフガニスタンの安定化に必要なイランとの対話は極めて困難になった。

 イスラム世界との和解を掲げるオバマ氏は6月のカイロ演説で、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を訴えた。だが、イスラエルは共存の条件で ある占領地への入植活動凍結を拒否。アフマディネジャド氏の再選でイランとの対話も遠のいた。和解へのシナリオは2度にわたり崩れたと言える。

 イラン核問題の進展も見通しは暗い。核開発の理由には(1)エネルギー需要(2)「一流国家」への仲間入り(3)核兵器の保有--などが考えられ るが、はっきりしない。一方、米国は西側諸国にイラン石油開発への投資すら認めず、原子力開発の許容範囲も明確にしていない。イランが経済発展で軍事力を 強めるとの疑念から、中東唯一の核保有国とされる同盟国イスラエルの優位性を維持するためだ。

 イランは欧米が「宗教支配体制を崩そうとしている」と考え、国民の離反を最も恐れている。国民をつなぎ留めるためにも西側との緊張関係を続けたい のが本音で、反撃の口実をつくるために西側から攻撃されても構わないとすら考えている。改革派ハタミ政権時代、米との対話を模索し、期待が裏切られたとい う不信感がある。

 国際社会は今後、「国連安保理5常任理事国+独」などさまざまな枠組みで対イラン交渉に臨み、当面は制裁強化に傾くだろう。だが、イラン側から対話に傾く可能性は小さい。【聞き手・鵜塚健】

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