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中東観察

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2009/07/03
12:07
空手家ラフサンジャニ師と対話



イラン大統領選を1か月後に控えて首都テヘランに緊張感が漂い始めた5月上旬、世界13か国で空手道場を開く笛吹市の宮川博人さん(59)が、次期 最高指導者との呼び声もある元大統領のラフサンジャニ師と現地で直接対話する機会を得た。イスラム革命体制を支えてきた元大統領は普段、西側の人間とは会 わないとされるが、宮川さんを公邸に招き入れ、空手を普及させた功績に対して「ありがとう」と謝意を示した。(佐藤友紀)

 元大統領への訪問は突然、決まった。

 訪問当日の現地時間5月10日午前。迎えの車で公邸に向かうと、こつ然と荘厳な門が現れた。イラン人の弟子ら約15人の訪問団で日本人はただ1人。大理石の門をくぐると銃を持った警備兵十数人に囲まれ、公邸まで5分ほど歩く。

 まばゆいシャンデリアがペルシャ絨毯(じゅうたん)を照らす大広間で、ターバンを巻いた元大統領がにこやかに握手を求めてきた。

 「あなたの空手で若者に夢と希望を与えてくれてありがとう」

 宮川さんは、テヘラン道場の支部長を務めるイラン人の弟子が空手の中東大会を主催するのに合わせ、来賓としてイランを訪問。5月9日の大会終了後、「宮川先生にイランの最高位の人に会ってもらいたい」と弟子が言うので、誰かも分からずに了承した。

 当初、5分の予定だったが、元大統領は終始笑顔を絶やさず、2人の対話は約30分に及んだ。話は、日本とイランの文化の違いや空手から世界情勢にまで広がった。

 宮川さんが「日本は米国の弟のようで、私は招かれざる客ではないですか」と問いかけると、「政治は政治であなたのやっていることとは別。我が国に 貢献してくれている」と元大統領。さらに「オバマ米大統領が中東と対話しようとしている。その呼びかけに皆さんが応え、世界が平和になると良いですね」と 尋ねると、元大統領は笑顔で「はい」と答え、敵対する両国関係改善への予兆を感じさせた。

 最後に元大統領は「私たちの国の人間は日本で大変お世話になっている。日本とイランは良い関係を保ちましょう」と発言、再び固い握手を交わした。

 2人の様子は現地の新聞が見開きで報じ、インターネットでも伝えられた。

 宮川さんは「帰国して元大統領だと知った。今思うと恐れ多くて、背筋が凍りそう」と苦笑する。

 宮川さんは高校生の時に空手を始めた。1982年、甲府市内に道場を開き、2001年頃には首から上の攻撃も認める「新実戦空手」という流派を創始した。

 02年、イラン人の弟子がテヘランで道場を開館することが決まり、初めてイランを訪問。連日新聞やテレビで「日本から空手の創始者が訪問」と報道 され、中東での空手の人気を実感した。以来、アフガニスタンやパキスタン、バングラデシュなどにも道場支部を開き、宮川さんによると、弟子は約2万 8000人で、イランでこの約半分にあたる1万2000人が稽古(けいこ)するという。

 宮川さんは「武道を通じて自分にできることがあったら世界に貢献したい」と話している。

■ラフサンジャニ師 イラン保守派アフマディネジャド大統領を支持する最高指導者ハメネイ師の罷免権を持つ専門家会議の議長。大統領を批判するムサ ビ元首相と同じ改革派の重鎮で、イラン大統領選の混乱の行方のカギを握る人物として動向に注目が集まっていた。元大統領は6月27日、「最高評議会」を通 じて大統領選の結果を受け入れる立場を表明した。

2009年7月3日  読売新聞)
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